『歎異抄』に帰る

-新迷林遊林航海記

月は 昔を思い出すためにある

40歳過ぎてから知ったことだけど、十五夜ってのは満月で、月がまん丸くなる。だから月の始めは月が細い。細い月が好き。

 

『ヨーコさんの”言葉”わけがわからん』(佐野洋子文、北村裕花絵、講談社) より

 

その4 お月さま

 

私が一番嫌いな写真は人間が月面を歩いている写真だ。

 

テレビで見た時も、「あんた、何しに行っているの、用もないのに」としか思えなかったが、

 

男たちは興奮していた。

 

お月様はウサギが餅ついているだけでいいの。私は侮辱されたような気がした。

 

山道を車で走っている時月を見ると、

 

昔のお姫様が月を見て男を待っていることを想像する。

 

唐土(もろこし)で、日本の月を恋しがる男の孤独を考える。

 

十二歳くらいの子守女が、冬の月を指さしている

ひび割れた小さな手を切なく思ったりして、

 

月は限りなく過去に私を連れて行く。

 

あれば見るものである。全ての人類が月を見て

あれこれ思いにふけったり、ただぼーっとしていたのだ。

 

月の石を待って帰ったりするのは狂気の沙汰である。

 

人にはやっていけないことがある。

そして人は

やっていけないことばかりしたがる。

しちゃうと当たり前になる。

 

未来はいつもいかがわしい。

つんのめって手先走る現実に、

もう私は息切れがしている。

 

一昨日(おととい)が満月だった。

この季節の満月を見ると、

北京(ぺきん)の月見を思い出す。

お客が酒盛りをしていて、

北京の中秋の名月は世界一だと

何回も何回も言って

 

大人たちはあごをつき出して

空を見ていた。

 

しかし私は地面にいる虫を

さがして下ばかり見ていた。

月を見なくちゃいけないと

上を見た時、

塀の上を黒い猫が歩いていた。

 

私は黒い猫に感心した。

 

大学の修学旅行で

奈良に行った時、

みんなひっくり返って

月を見ていた。

満月だった。

 

男の子の顔が昼前より

はっきり見えた。

 

「お前さぁ今はモテないけど

二十七、八になったらいい女に

なるよ。俺(おれ)そんな時になったら

惚(ほ)れてやってもいいぜ」

 

「そんな先のことじゃなくて、今惚れなよ」

「そりゃ無理だよ。絶対無理だな」

あの男の子はどうしただろう

 

ベニスで十歳くらいの男の子にナンパされた。

夜の八時に教会の噴水のところで待っているといった。

一二時近くにベランダに出たら月が出ていた。

海に光がさわさわ映ってていた。

本当にあの子は教会の前で待っていたのだろうか。

なんだか笑いたかった。満月だった。

 

ほら、月は

昔を思い出すためにあるのだ。

 

今夜は月を撮ります。

 

クレーターなんか見えたら、

佐野さんに叱られそうですね。

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今日はお昼にも撮りました。

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春の昼の月。

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