遊林が急に髪をとくようになった。
嫌がらずに、風呂に入るようになった。一人で入りたがる。
シャンプーを香りで選んだ。
もう少し早く出来るようになっていたら、卒業アルバムの写真は右からの風に吹かれてるようなぐちゃぐちゃアタマを回避できたのに。あの朝私が見てあげなかったから、という自責の念もあるけれど、そんなことは自分でやってほしい思いが勝る。
でも、歯を磨かないし、制服はぐちゃーっと脱ぎっぱなし。
いわれなくちゃやらないし、いわれてもやらないときさえある。
歯を磨かないことは、たまに激怒する。考えてみたら朝9時くらいまでが多い。言ってる自分も傷つくくらいの言葉が出ることもある。それで先週は「子を持っているから憂うのだ」に行きついた。
「田有るもの田を憂う、・・・」
然るに世人、薄俗にして共に不急の事を諍う。この劇悪極苦の中において身の営務を勤めて、もって自ら給済す。尊もなく卑もなし。貧もなく富もなし。少長男女共に銭財を憂う。有無同然なり。憂思適に等し。屏営愁苦して、念いを累ね慮りを積みて、心のために走せ使いて、安き時あることなし。田あれば田を憂う。宅あれば宅を憂う。牛馬六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。思いを重ね息を累みて、憂念を愁怖す 。『仏説無量寿経巻下』
お経の言葉をひっぱりだして怒りをしずめたのだった。
田あれば田を憂う。宅あれば宅を憂う。牛馬六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。
田:田んぼ
宅:家
六畜:六種の家畜。馬・牛・羊・犬・豕(いのこ-豚)・鶏。
「三宝の奴婢と―を打つこと得じ」〈霊異記・下〉
参考 http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/236524/m0u/
奴婢(ぬひ):奴隷。奴は、男性の奴隷。婢は女性の奴隷。奴婢は、一般的に職業の選択の自由、家族を持つ自由、居住の自由などが制限されており、一定の年齢に達したり、その他の条件で解放される場合もあった。しかしながら基本的には家畜と同じ扱いであり、市場などで取引されていた。
中国の奴婢制度は中華人民共和国の成立で正式に廃止された。日本における奴婢制度は、隋・唐の律令制を日本式に改良して導入したものである。律令制の崩壊とともに消滅した。(ウィキペディア参考)
銭財・衣食:お金や財産、服、食べ物。
什物(じゅうもつ):道具、器具。
田んぼ、家、無いときはあればいいのにと憂うが、有ると持っていることを憂う。
飼ってる馬牛羊犬豚鶏・奴隷(時代考慮)、お金や財産、服、食べ物、日常使っている道具、器具、共に、有ること、持っていることを、憂う。無くても憂う、有ってもまた憂う。子どもも伴侶も親もウサギも、有るから憂う。
あ、また髪といてる。
「歯みがいていないでしょ。」
「・・・。」
シャカ、シャカ・・・