『歎異抄』に帰る

-新迷林遊林航海記

私の夫

私の夫はロバのような人だ、と新婚旅行のときに思った。彼は特大のモンベルのリュックを黙って担いで歩いた。
妹からすると「ウサギのような人」なのだという。ウサギは飼い主にしかその表情が読めないといわれる。夫が喜んでいる時怒っている時辛そうにしている時はわかる。
昨日夫は珍しく帰りが遅かった。母は「(婿が)出ていったのではないかと心配でしょうがなかった」といった。結婚して20年以上になる。彼は飲みに行くこともなく、パチ屋にも行かない。休みの日はコメリには行くが、仕事以外で出かけることがほとんどない。じーっと一人で六畳半の秘密基地で過ごしている。ゲームをしているみたいけどなにをしているのかは知らない。
ある日夫が「今から弱音を吐くよ」と言って、仕事をやめたいと言った。「辞めたらいいよ、ちょうどいい」と私は言った。
付き合っていた時、彼は大学を卒業して、仕事をしていなかった。そのうち学童保育の仕事をした。私は介護の仕事をしていた。同棲することになったが、養っていたように思う。それで、よかった。
また、養うことになるのは、悪くない。ロバは今まで一生懸命に私達家族を黙って担いで歩いてきたのだから。